ATX 電源を改造して安定化電源を作ってみた Part 1/3: 準備編【DIY・電子工作】

どうも、ゼロ・インピーダンスの Kenn です。

今回は、要らなくなったパソコンの電源を改造して、電子工作の実験用の安定化電源を作ってみようと思います。

なぜ安定化電源が欲しいのか?

僕が電子工作を始めたのが 1 年半くらい前なんですが、上についているソーラーパネルで充電できる非常用ランタンを電源として使ってました。下側にあるソケットから AC アダプタで充電できるんですが、このソケットから電圧を出力もできたからです。

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いま考えると、「充電用のソケットから出力できるってどういうこと?」って思いますけど、それは置いときます。(内蔵電池と直結しているか、内部の MOS-FET の内蔵ダイオードを逆流してた?)

中身はニッケル水素かニッケルカドミウム電池が 5 本直列になっている仕様なんですけど、やっぱり電池なので、出力電圧は不安定でした。だいたい \( 5.5\,\mathrm{V} \) から \( 6.5\,\mathrm{V} \) くらいの出力で、残量が減れば当然電圧は下がるし、電流量が変化しただけでも下がるので、実験用としてはさすがに使いにくい感じでした。

ということで、「電圧が安定している実験用の電源が欲しいなぁ」と最近思っていたんですが、市販の安定化電源はちょっと避けてました。

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というのも、上は Amazon で『安定化電源』と検索したときの結果なんですが、まあそこそこのお値段がするわけですよ。買えないほどではないんだけど、気軽に買うのは、ためわれるという絶妙な値段。

「最初に電源にお金掛けるよりは色々なパーツを買ったほうが楽しめるかな」と個人的には思っているので、できれば身近なもので安定化電源(っぽいもの)を作れないかと考えてました。

他の人のブログとか見て、「最初は AC アダプタか USB 電源を改造しようかな」と思ってたんですが、よく調べたら、『それらよりもっと実験用の電源に向いているものがある』という話を聞きました。

ATX 電源を改造して安定化電源を作る

それが、PC (パソコン)の電源らしいです。

『パソコンの電源をちょっと改造すれば実験用の電源として使えるよ』というようなことが書かれたブログをいくつか見かけたんですが、使ってない PC なら押入れに 2, 3 台はあるので、たぶん何も買ったりせずに作れそうな気がします。

ということで、ちょっと試してみることにしました。

ATX 電源が実験用に向いている理由

PC の電源のことを『ATX という規格に準拠している電源』という意味で ATX 電源 と呼ぶらしいので、このブログや動画でも、そう呼ぶことにします。

ATX 電源がなぜ実験用電源に向いているかというと、理由はいくつかあって、

出力電圧が 4 種類

ATX 電源の出力電圧は \( 3.3\,\mathrm{V} \), \( 5\,\mathrm{V} \), \( 12\,\mathrm{V} \), \( -12\,\mathrm{V} \) の 4 種類あって、電子工作でよく使われる \( 5\,\mathrm{V} \)\( 12\,\mathrm{V} \) が最初から含まれてます。

AC アダプタとか USB 電源だったら \( 5\,\mathrm{V} \)\( 12\,\mathrm{V} \) の両方を駆動するには電圧の変換(昇圧か降圧)が必要になって面倒なんですが、ATX 電源だったら何もせずに最初から使えます。

あと \( -12\,\mathrm{V} \) の負電圧があるのが地味にうれしくて、オペアンプの実験で楽できそうな気がします。「オペアンプの実験をしたいが負電圧をどうやって用意すればいいのか?」という質問をよく見かけるぐらい、負電圧を作るのは面倒なんですが、ATX 電源ならやっぱり最初から使えます。

これはおまけですが、 \( +12\,\mathrm{V} \) から \( -12\,\mathrm{V} \) に流すことで、擬似的に \( 24\,\mathrm{V} \) を作ることも可能な気がします。

数十 \( \mathrm{A} \) の大出力

身近な電源で \( 10\,\mathrm{A} \) 以上出せる電源って実はそうそうないです。

例えば、USB 電源だと規格上の保証値(最低これくらいは出力できるよという値)は USB 3.0 で \( 1\,\mathrm{A} \) だし、電池も数 \( \mathrm{A} \) くらいが限度だと思うし、AC アダプタはものによるけど \( 10\,\mathrm{A} \) 以上のものは個人的に見たことがないです。

高輝度 LED とか高出力モーターの実験とかで役立ちそうです。

保護機能

ATX 電源は ATX の規格によって、ショート検出・過電流検出・過電圧検出・熱破壊防止機能が必ずついているので、実験中に誤ってショートさせても電源は大丈夫そうです。(実験中の回路が大丈夫とはいってない)

電子工作の実験をすると間違ってショートさせたりすることが稀にあるので、電源が燃えたり爆発したりするのを防げるのはありがたいです。

入手しやすくて安い

僕みたいに、使ってない PC があるなら無料で入手できるし、買うにしても数年~十年くらい前のものなら中古で数百円で買えると思います。

安価で手軽に作れるというのは魅力的。

調べたところ、ATX 電源を安定化電源として使うには、ちょっとした改造が必要みたいなんですが、僕としてはむしろ楽しみですし、電子工作が好きな人にとっては欠点というほどではないかと思います。

電源の選定

いま、押入れにあった省スペースタイプの PC を 2 台もってきました。

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大きい PC の電源のほうが出力電流とか多くて高性能だと思いますが、机の上に常に置いておくつもりなので、大きいと邪魔だと思って、省スペースタイプにしました。

たぶん、実験用としては十分な性能だと思います。

左が NEC の MATE, 右が日立の FLORA という PC です。NEC MATE はたぶん 2000 年前後、日立のほうも 2005 年付近のもので、正直古すぎて型番を検索しても情報が出てこなかったりするくらいのものです。

一応、もう少し新しい PC もあるんですが(とはいえ 2010 年前後のもの)、このくらい古い PC の電源でも実験用電源としては使えるというところを確かめたいので、あえてこれでやってみようと思います。

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上の写真は、それぞれの電源に貼ってあったラベルです。

電圧ごとの最大出力電流とかが書かれているので、これらを参考に、どっちの電源を使うかを決めようと思います。

電源の比較

ラベルの写真では、ちょっと分かりにくいので、電圧と電流を表にまとめてみました。

電源\( 3.3\,\mathrm{V} \)\( 5\,\mathrm{V} \)\( 12\,\mathrm{V} \)\( -12\,\mathrm{V} \)
NEC MATE\( 6\,\mathrm{A} \)\( 15\,\mathrm{A} \)\( 1.5\,\mathrm{A} \)\( 0.2\,\mathrm{A} \)
日立 FLORA\( 10\,\mathrm{A} \)\( 6.7\,\mathrm{A} \)\( 14.5\,\mathrm{A} \)\( 0.2\,\mathrm{A} \)

今回作る電源では \( 3.3\,\mathrm{V} \) は使わないつもりなので無視して、あと \( -12\,\mathrm{V} \) の出力は両方とも同じなので、 \( 5\,\mathrm{V} \)\( 12\,\mathrm{V} \) の出力で決めます。

\( 5\,\mathrm{V} \) 出力は NEC のほうが大きくて、 \( 12\,\mathrm{V} \) 出力は日立のほうが大きいので、 \( 5\,\mathrm{V} \)\( 12\,\mathrm{V} \) のどちらを重視するかで決めればよさそうですが、……ちょっと、さすがに NEC の \( 12\,\mathrm{V} \)\( 1.5\,\mathrm{A} \) は少なすぎな気がします。

\( 12\,\mathrm{V} \) 出力はモーターとかヒーターとかの駆動で \( 10\,\mathrm{A} \) くらい使うこともありそうなので、そうすると NEC の容量だとまったく足りないことになってしまいます。

\( 5\,\mathrm{V} \) 出力が大きいとスマホやタブレットの充電とかで便利かもしれないですが、それでも \( 6.7\,\mathrm{A} \) あれば十分な気はします。

まあ、さすがに NEC の \( 12\,\mathrm{V} \) が小さすぎたので、日立の電源を使おうと思います。

電源の取り出し

PC から電源を取り出すだけのはずが、意外にも苦戦してしまいました。詳しくは動画を見てください。

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まさか、電源を取り外すのに CDD/HDD だけならまだしも、メモリと CPU クーラーまで外さないといけないとは思ってなかったわけですが、考えてみれば、交換しやすいメモリと HDD は外しやすいようになってて、電源なんて交換することはまずないから最後になっているのかもしれないですね。

そう考えると、理に適った設定な気もします。

省スペースタイプの PC から電源をとろうと思っている人は、ちょっと覚悟が必要っぽいです。

まとめ

今回は、ここまでにしようと思います。

次回は、取り出した電源の動作確認をするところからやっていきます。

ここまで見てくれて、ありがとうございました。

よかったら動画も見てください。

      2019/07/20

 - 電子工作