MC34063 を使ってスイッチング定電流回路を作ってみる Part 1/4 準備編【電子工作・実験】
注意: この実験は最終的に失敗します。いろいろ勉強できることが多かったので記事として投稿しますが、参考にする場合には注意してください。
どうも、ゼロ・インピーダンスの Kenn です。
今回は、MC34063 というスイッチング電源作製用の IC を使って、LED 用の定電流回路を作製できるかということについて実験をしてみようと思います。
LED 点灯には定電流回路が必要
電子工作入門とかの本の最初のほうには、『LED を点灯させる回路には、電流を制限するための定電流回路が絶対に必要になる』って書いてあると思います。
『なぜ、LED には定電流回路が必要なのか?』
それを説明するために、いまから 2 つのグラフをお見せします。
まず、 上のグラフは横軸が LED の端子間電圧、縦軸が流れる電流で、簡単にいうと、『電圧が高くなると、電流がどう変化するか?』というのを表したグラフです。
一目で分かると思うんだけど、直線じゃなくて、指数関数みたいな曲線になってるでしょう。
白の LED はだいたい \( 3.3\,\mathrm{V} \) 付近でちょうどいい電流が流れるようになってることが多いですが、\( 0.1\,\mathrm{V} \) 高くなっただけでも、電流は結構増えます。
ちょっとグラフからは読み取りにくいんですが、\( 3.3\,\mathrm{V} \) で \( 20\,\mathrm{mA} \) だったのが、\( 3.4\,\mathrm{V} \) で \( 28\,\mathrm{mA} \) になってます。
電圧が 3% しか上がってないのに、電流は 40% も増えている!!
こういうふうに、電圧がちょっと変化しただけで、電流が大きく変化するという特性が LED にはあります。
だから、電流をちゃんと制御しないといけないわけなんですが、ここまでの話だと、別に定電流回路じゃなくて、定電圧回路でもいいと思いません?
でも、だめなんですよ。
その理由が、次のグラフです。
これは、横軸が LED の中心部の温度で、縦軸が電圧シフトです。
『電圧シフトって何?』というのを説明する前に、LED のもう 1 つの特性を話そうと思います。
それは『温度が上がると電流が流れやすくなる』ということです。あまりこういう言い方はしないけど、『温度が上がると、抵抗値が下がる』というイメージでもいいです。
じゃあ、どのくらい温度が上がると、どのくらい流れやすくなるのかというのが、さっき見た、このグラフです。
例えば、\( 55\,\mathrm{^\circ C} \) のところを見てほしいんですが、電圧シフトが \( -0.1\,\mathrm{V} \) って書いてあるでしょ。
これは、『LED の中心部の温度が \( 55\,\mathrm{^\circ C} \) になると、さっきの水色のグラフが左に \( 0.1\,\mathrm{V} \) 分だけずれる』ということを意味してます。
他の回路だったら「\( 0.1\,\mathrm{V} \) くらい誤差!!」てなるんだけど、ほら、さっきいったじゃない。「LED は、ちょっと電圧が高くなっただけで、電流が大きく増える」って。
\( 0.1\,\mathrm{V} \) 高くなっただけで、電流は 40% も増えるんですよ。
これが、定電圧回路だとダメな理由です。
もし仮に、正確な \( 3.3\,\mathrm{V} \) の定電圧回路があったとしても、思い通りの電流が流れるのはスイッチをいれた瞬間だけで、数秒後には電流量が数十 % 以上増えてます。
動画撮影用のライトを作るという別の動画で実験したことなんですが、LED を点灯させて 10 秒後には \( 20\,\mathrm{^\circ C} \) から \( 30\,\mathrm{^\circ C} \) くらい温度が上がりました。
なので、温度変化があっても電流を一定にするために、定電流回路が絶対に必要なんです。
定電流回路といってもやり方はいくつかあるので、よく使われている方法を 3 つ紹介します。
直列抵抗方式
定電流回路といってもいくつか種類があるんですが、電子工作入門の一番はじめに載っているようなのは、抵抗器を LED と直列にいれるだけのやつです。
回路がものすごく単純で、値段も安くて済むし、ちゃんと設計すればそこそこうまく動くということもあって、\( 3\,\mathrm{mm} \) とか \( 5\,\mathrm{mm} \) の砲弾型 LED とかでよく使われてます。
ただ正直、お世辞にも『定電流回路』とは呼べないくらいの性能なので、大電流用途では効率が悪いですし、5 コとか 10 コとか複数の LED を直列にする場合にも向いてません。
なぜ不向きかは時間がないので今回は省略しますが、発熱による電圧シフトが関係してます。
シリーズレギュレータ方式
次は、シリーズレギュレータ方式というものです。
これは、オペアンプが電流検出抵抗を監視して、端子間電圧が一定になるようにトランジスタを制御するというやり方で、簡単にいうと、電流が多くなるとトランジスタの出力を絞って電流を少なくして、電流が少なくなるとトランジスタの出力を開いて電流を多くします。
こんなふうに、多くなったら少なくして、少なくなったら多くして、ということを短時間に何度も繰り返して、「平均すると定電流になってるよね」という感じです。
さっき説明した直列抵抗に比べると、積極的に電流を調整しようとするので、定電流性能はかなり高くて、5 コとか 10 コの LED を直列にするケースでも、問題なく使えます。
回路もそれほど複雑ではないし、性能も高いということで、個人で LED 照明を作る際にはよく使われる回路で、実際僕も動画撮影用ライトを作ったときに、このタイプの定電流回路を 10 コ作りました。
ただ欠点もあって、余った電力をトランジスタで消費するというやり方なので、トランジスタの発熱が無視できなくなってくるんですね。
僕も、結局後からファンをつけることになって、結構苦労した覚えがあります。
スイッチング方式の定電流回路
最後は、スイッチングレギュレータ方式の定電流回路というものです。
スイッチング電源と呼ばれるタイプの電源があって、入力電流を細切れのパルスにして、それを均すことで電圧を下げるという仕組みです。
この図でいうと、赤線が入力、青線が出力で、入力電圧が \( 9\,\mathrm{V} \) です。
『\( 10\,\mathrm{\mu s} \) だけ ON にして、\( 20\,\mathrm{\mu s} \) だけ OFF にする』というのを繰り返します。
1 周期 \( 30\,\mathrm{\mu s} \) あたり \( 10\,\mathrm{\mu s} \) だけ ON になっているので、これを『Duty 比 33%』といいます。
そうすると、ならした出力電圧は入力に duty 比をかけた \( 3\,\mathrm{V} \) ぐらいになる、という仕組みです。
こういう電源をスイッチング電源とか、スイッチング DC-DC コンバータ、チョッパ回路、バック・コンバータとかと呼ぶんですが、これを定電流回路に応用するという話です。
さっき、トランジスタを使った定電流回路の説明をしましたけど、余分な電力をトランジスタで消費する仕組みなので、発熱が問題になりましたよね。
ではスイッチング方式の場合はどうかというと、インダクタというパーツで電流をコントロールします。
インダクタがもってる『電流を流れにくくする』という性質を利用してるんですが、抵抗器とかトランジスタとまったく違う方法で電流を流れにくくしてるので、ほとんど発熱がありません。
なので、高輝度タイプの LED 照明には、ほとんどこのタイプの定電流回路が使われていると思います。
MC34063 を使った設計は可能か?
ここまで見ると「スイッチング方式は理想の定電流回路だ」と思えるかもしれないですが、残念ながら、やっぱり欠点はあるんですよ。
部品の数が多いので、コストが高くなるということと、回路がかなり複雑になるということ。
次の図は、以前、動画撮影用ライトのときに作った定電圧回路なんですが、(定電流じゃなくて定電圧です)、IC を使ってもこんな感じになります。
照明を作るとなると、定電流回路が 10 コくらい必要になることもあるので、結構痛い。
でも、「放熱が問題になってファンをつけないといけない」となるよりはマシだと思うので、なんだかんだいって、いまのところ、これが最良の方法かなと思います。
いまは、LED 専用のドライバ IC というのも結構あるらしく、それを使えば比較的楽に作れるとは思うんですが、個人にはなかなか入手しにくかったり、高かったりすると思います。
そこで、「昔からあるスイッチング電源用の IC MC34063 を使って、スイッチング式の定電流回路を作れないだろうか?」と思い立ったわけです。
さっき見せた定電圧回路も MC34063 を使ってるんですが、この IC はいろんなところで使われてて、量産もされてるんで、かなり安いです。
中国の通販サイト AliExpress だと、これは表面実装タイプですけど、50 コで 160 円、1 コあたり 3 円とか 4 円とかで買えたりするんですよ。しかも送料無料。
これだったら、10 コ使ったとしても全然痛くないわけです。
マイクロインダクタを使用したい
スイッチング電源ではインダクタを外付けする必要があるんですが、以前作った定電圧回路では、インダクタを自分で手巻きして作りました。
インダクタのコアが大量に余ってたのと、そこそこ出力電流が欲しかったのが理由なんですが、やっぱり大変なわけですよ。
しかも、LED の定電流用に使う場合、そこそこ大きなインダクタンスが必要かもしれなくて、そうすると巻数を増やしたり、もっと大きなコアを使ったりしないといけなくて、それを 10 コ作るとか、さすがにやりたくない。
そうすると既製品を買うという選択になるんですが、既製品で一番小さくて安いのって『マイクロインダクタ』というものなんですよ。
こういう抵抗器みたいな形のインダクタなんですけど、これを使えば、手巻きしなくていいから楽だし、回路自体を小さくできるし、あと安いんですよ。
「どちらかというと LC フィルタとかに使われるのかな」となんとなく思うんですけど、マイクロでもインダクタなんだからインダクタンスはあるわけで、定格を守りさえすれば、電源回路に使えないってことはないはずなんですよ。たぶん。
小さいので、流せる電流が少ないという欠点があるので、そこをクリアできるかどうかが、今のところ懸念事項です。
マイクロインダクタを使えるとなると、かなり楽できることになるので、ぜひうまくいってほしい。
さいごに
結構な分量になってきたので、今回の記事はここで一旦終わろうと思います。
次回は、回路の仕様を決めて、設計するところからやっていきます。
ここまで見てくれて、ありがとうございました。よかったら動画もみてください。
2019/10/20