MC34063 を使ってスイッチング定電流回路を作ってみる Part 4/4 挫折編【電子工作・実験】

どうも、ゼロ・インピーダンスの Kenn です。

今回は、MC34063 を使ったスイッチング定電流回路の実験動画の最終回です。

本当はね、こんな回はないほうがよかったんですが、仕方ないですね。

今回は挫折編ということで、いままでの動画はなんだったんだろうという感じなんですが……

あの回路は実用できなかった……

そもそも何が起こったかというと、今回作った回路は実用が難しいということが判明してしまったんですよ。

まったく使えないわけではなくて、LED 1, 2 コだったら可能だと思うんですが、5 コ以上の LED を直列にする場合、マイクロインダクタだと難しくなります。

わざわざ複雑なスイッチング定電流回路を使うとなると LED 5 コ以上のケースがほとんどだと思うので、実質、実用できないってことになります。

スイッチング電源というか、MC34063 に関する知識がたりなかったのが敗因ですね。

ことの発端

なぜ、このことに気づいたかというと、LED の点灯回路は、これからもよく作りそうだと思ったので、必要なインダクタをまとめて買っておこうとしたんですよ。

使いやすいインダクタンスのものを買った方がいいので、パラメータ計算をしていたら、こんな感じになったんですよ。

73b1c2763ba983e28f4235453018e33c.jpg

これは \( 18\,\mathrm{V} \) の電源で 5 コの LED を点灯させるという設定なんですが、なんか、\( t_\mathrm{on} \) にくらべて \( t_\mathrm{off} \) がめちゃくちゃ短いですよね。

「あれ、これって大丈夫なんだっけ」って思って、よく考えてみたらダメだったっていう。

これって、逆だったら、たぶん大丈夫なんですよ。

\( t_\mathrm{on} \) が短い分には、出力電圧が高くなりすぎて、フィードバック機能が働いて発振がとまって、電圧も元に戻る、となるんですけど、\( t_\mathrm{off} \) が短いと、インダクタが必要な電力を充電できてないということなんで、どうしようもないんですよ。

例えていうなら、エネルギーが多すぎる分には手加減してちょうどよくすることはできるけど、エネルギーが少なすぎる場合にはどうやっても無理、っていう感じです。

MC34063 は Duty 比を指定できない

直接の原因は何かというと、MC34063 は Duty 比を指定できないってことです。

データシートには次のように \( t_\mathrm{on} \), \( t_\mathrm{off} \) の計算式が書いてあるんですが、\( t_\mathrm{off} \) は実際にこの値にはならないです。

mc34063-calc.png

ちょっと別の話をしますけど、この回路図を見てください。これは NE555 というタイマー IC を使った発振回路の図です。

astable-schematic.png

左側に \( R_A \), \( R_B \) という 2 つの抵抗器と、タイミングキャパシタという \( C \) を外付けして、発振周期と duty 比を設定できる仕組みになってます。

一方で、こっちは MC34063 を使った降圧回路の図ですが、左にあるのが過電流検出抵抗で、右側中央が平滑のためのダイオード・インダクタ・キャパシタ、下側 2 つの抵抗器はフィードバックの分圧のためで、IC からぶらさがっているのがタイミングキャパシタです。

buck-schematic.png

NE555 と比べてみると分かるんですが、MC34063 には \( R_A \)\( R_B \) に相当する抵抗器がないんです。

これはデータシートに書かれているわけではないんですが、たぶん、\( R_A \)\( R_B \) は IC に内蔵されているんだと思います。

タイミングキャパシタは指定できるから周期と \( t_\mathrm{on} \) は設定できるけど、\( R_A \)\( R_B \) を指定できないから duty 比、つまり \( t_\mathrm{off} \) は設定できない。

内蔵の抵抗器を使っているから、実質、duty 比は固定になっちゃうみたいです。

85% 以上の Duty 比は実現不可

これはデータシートに載っているグラフで、タイミングキャパシタと発振周期に関するものです。

t-ct-graph.png

これを見ると、タイミングキャパシタを決めると、\( t_\mathrm{on} \)\( t_\mathrm{off} \) が自動的に決まるってことが分かりますね。

ちょっと調べた感じでは duty 比 85% くらいと言われてるみたいですが、そうすると 85% 以上の duty 比は実現不可能ということになります。

85% 未満の場合には、さっきちょっといいましたけど、フィードバック機能があるので実現可能です。電圧が高くなりすぎたら、単に発振をやめればいいだけだから。

一応、入力電圧を \( 22\,\mathrm{V} \) 付近にして、Duty 比を下げれば実現可能にはなるんですが、下げちゃうとインダクタに流れる電流が多くなってしまうので、マイクロインダクタでは定格オーバーしちゃいます。

大きなインダクタだったら普通に大丈夫なんですが、そこまでしちゃうとスイッチング定電流回路を使うメリットがだいぶ薄れてきてしまうので、正直やる気が出ない。

失敗原因まとめとリベンジ案

『3 日後です』

ちょっと時間がたって頭の中が整理されたので、今回の失敗原因について図を使ってまとめてみようと思います。

これはうまくいかなかった回路図の省略版です。図では LED が 1 つしか書かれてないですが、実際には 5 つ直列に並んでいると思ってください。

duty-failure.png

順方向電圧は \( 3.3\,\mathrm{V} \) かける 5 で \( 16.5\,\mathrm{V} \) です。電源は \( 18\,\mathrm{V} \) で、左上から右に進んでそのまま下におりるような感じで電流が流れます。

すると、電源が \( 18\,\mathrm{V} \) で LED の順方向電圧が \( 16.5\,\mathrm{V} \) だから、残りの \( 1.5\,\mathrm{V} \) がインダクタにかかります。

別の言い方をすると、インダクタは \( 1.5\,\mathrm{V} \)\( 11.75\,\mathrm{\mu s} \) のあいだ充電されます。

そして、スイッチが OFF になると電源と LED が切り離されるので、さっき充電したエネルギーでインダクタが LED を動かすことになります。

ところが、\( 1.5\,\mathrm{V} \) で充電したエネルギーで \( 16.5\,\mathrm{V} \) の LED を動かすわけだから、エネルギーがすぐになくなってしまいます。具体的には、\( 0.96\,\mathrm{\mu s} \) しかもたない。

これが原因で、duty 比がすごく高くなって、うまくうごかないわけです。


もし電源電圧が \( 22\,\mathrm{V} \) の場合、インダクタの端子間電圧が \( 5.5\,\mathrm{V} \) になって、充電できるエネルギーが増えるので、\( 2.61\,\mathrm{\mu s} \) 駆動できるようになります。

そうすると duty 比が 76% までさがるので、MC34063 で実現可能になるんですが、インダクタンスを大きくする必要があるので、マイクロインダクタだと定格オーバーになってしまいます。


ちょっと別の視点からの図なんですが、これは、横軸が時間、縦軸がインダクタの電流を表したグラフなんですが、

duty-failure-graph-3.png

まず一番上の緑のグラフを見てほしいんですが、これは duty 比 85% の理想的な状態の図です。

スイッチが ON のときに \( 300\,\mathrm{mA} \) まで充電して、OFF のときに一気に放電する。

薄い緑に塗りつぶした三角形と、濃い三角形があるんですが、薄い緑の三角形の平均電流はどのくらいか?

これ実は \( 150\,\mathrm{mA} \) です。

なぜなら、三角形の上半分をとりはずして、上下反転して隙間にいれると、高さが \( 150\,\mathrm{mA} \) の長方形になるでしょ。ということは、平均電流が \( 150\,\mathrm{mA} \) ということです。

同じように、濃い三角形も上の部分で埋めてやれば、平均電流は \( 150\,\mathrm{mA} \) です。

なので、この波形は全体的にみても平均 \( 150\,\mathrm{mA} \) になるということです。


次に、真ん中の赤のグラフをみてほしいんですが、これが今回失敗した回路図のグラフです。

三角形の部分はさっきと同じで平均 \( 150\,\mathrm{mA} \) なんですが、濃い三角形の右側に電流がまったく流れていない隙間がありますよね。

Duty 比 92% にしたいのに、MC34063 の duty 比が 85% だからうまれた隙間なんですが、この隙間のせいで全体の平均電流は \( 138\,\mathrm{mA} \) まで下がっちゃいます。

この隙間が原因で、うまくいかない。


実は、ちょっと冷静に考えてみたら、「もしかしたらリベンジできるかもしれないな」という方法を思い浮かんだんですよ。

まだ思いついただけなんで、うまくいくかは分からないんですが、一番下のピンクのグラフをちょっと見てください。

これは、波形自体は赤のものと同じで隙間があるんですが、最大電流を増やした状態にすれば平均で \( 150\,\mathrm{mA} \) を実現できるんじゃないかという方法です。

具体的にいうと、ピーク電流を \( 326\,\mathrm{mA} \) にして三角形の部分の平均電流を \( 163\,\mathrm{mA} \) にすると、隙間の部分を含めた平均がちょうど \( 150\,\mathrm{mA} \) なるんですよ。

実はこれは、結構イケるんじゃないかと思ってて、LED には瞬間的に定格を超える電流が流れるわけなんですが、1 周期が十数 \( \mathrm{\mu s} \) とかなんで、消費電力は平均電流で計算していいはず。


ただ実験するとなると、\( 18\,\mathrm{V} \) 電源を作ったり、チップタイプの高輝度 LED を 5 つ直列につなげたりということが必要になるし、

電流検出抵抗を \( 1\,\mathrm{\Omega} \) にするので、ブレッドボードじゃなくて PCB に実装しないといけないとか、いろいろ大変なので、気が向いたらというか、別の工作で LED 点灯回路を作るときについでにリベンジしようかなと思います。

いつになるかは分からないですが、いつかやります。たぶん。

さいごに

はい、では MC34063 を使ったスイッチング定電流回路の実験は、今回で本当に最終回です。

ここまで見てくれた人には申し訳ないというか、「そもそもこんな動画出していいんだろうか」とも思ったんですけど、失敗するのを見るのは面白いかもしれないし、失敗したからこそ新しく分かったこともあったので、記録として残そうと思いました。

でも一応、リベンジの可能性を見つけられたので、そんなに悪いことだけでもなかった気もします。

ではまた別の記事でお会いしましょう。よかったら動画もみてください。

      2020/01/26

 - 未分類, 電子工作