プリント基板 (PCB) を自作してみた(オキシドール・クエン酸・食塩を使った方法) Part 2/2 実験編【電子工作・実験】

はい、今回も始まりました電子工作実験 実況風動画、『プリント基板を自作してみる』第 2 回, 最終回です!!

ゼロ・インピーダンスの Kenn がお送りします。

実験: パターン転写

以降、実験風景です。詳しくは動画を見てください。

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↑ フリーソフト Fritzing で適当な回路図を開き、[Export for PCB]-[Etchable (SVG)] を選択し、保存するディレクトリを指定します。

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copper_top_mirror という名前の入ったファイルを Inkscape にインポートし、適当にレイアウトします。

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↑ 表面がつるつるした紙(カタログ用紙)にパターンを印刷します。

Inkscape で作ったレイアウトと違うのは、何度か試行錯誤してやり直したからです。

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↑ 生基板を適当な大きさに切り出します。力をかなり込めないといけないので、指を切らないように注意してください。

片面あたり 15 ~ 30 回くらい切りつけて、ペンチで曲げると、パキッと割れます。(動画参照)

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↑ パターン転写に必要なヘラを、割り箸を削って作ります。

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↑ パターン転写に必要なビニールカバーを固くて厚いビニールから作ります。(パンが入っているビニールが適しています)

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↑ 生基板の上に型紙を重ね、アセトン(除光液)を多めに吹きかけ、カバーを載せた状態で、ヘラで強くこすります。(動画参照)

転写されにくい端と角を、意識的にこすります。

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↑ カバーを取り、生基板と型紙が完全に乾いたら、水の中に沈めて 15 分くらい放置します。

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↑ 角から型紙を剥がすと、トナー(インク)だけが生基板に残ります。

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↑ そこそこうまく転写されました。

実験結果

これ、結構うまくいったんじゃない?

印刷した紙そのものが生基板にくっつくのかと最初思ってたんですが、トナーだけがきれいにくっつくんですね。-これ見てて結構気持ちいい感じだった。

今回は、うまくいかなくて線が途切れたりするかなと思って、比較的太い線でやったんですけど、もっと細い線でもできそうな感じですね。

転写のときのこすり方ですけど、真ん中付近は何度もこすることになるから、そんなにがんばらなくてもよくて、端と角を意識的にこすったほうがいいと思います。

動画だと念を入れて、アセトンを 2 回噴射してますが、1 回でも、たぶん大丈夫です。むしろ下手に 2 回やると、トナーが滲んで、パターンの線が太くなったり、つながったりしやすいかもしれないです。

追記: 試したところ、1 回でも大丈夫でした。

エッチング

パターンの転写が意外とうまくいったんで、銅箔を溶かして、プリント基板を完成させちゃいます。

ところで、銅箔を溶かすことをエッチングと呼ぶんですって。

うん、エッチングね。

なんか、言わないといけない気がするので説明するんですが、『エッチ (etch)』というのは『金属とか石とかに文字を刻む』という意味の英語なので、いかがわしい意味ではないですよ。本当に。

オキシドール + クエン酸 + 食塩を使った方法

オキシドールとクエン酸と食塩を使った方法でやろうと決めたわけですが、やり方は結構簡単そうです。

  1. クエン酸と食塩を 4:1 で混ぜた粉を、オキシドールに溶かします。
  2. そして、パターンを転写した生基板を浸して、
  3. しばらく放置すればエッチングができる

らしいです。

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実験: エッチング

以下、実験風景です。詳しくは動画をみてください。

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↑ ジッパーのついた小さい袋に、クエン酸と食塩を 4:1 で混ぜた粉末をスプーン 1 杯程度いれ、オキシドールを少量注ぎます。

オキシドールは \( 10\,\mathrm{mL} \) も要らないと思います。

粉末がちょっと溶け残るくらいがちょうどいいので、適当に調整します。

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↑ 生基板を溶液の中にいれて、しばらく放置します。

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↑ 30 秒後。もう気泡ができはじめてます。

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↑ 4:30 後。表面が青緑色になってきています。銅イオンが溶け出している証拠だと思います。

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↑ 12 分後。銅箔がぜんぶなくなりました。

結構一気にくるので、1 分おきくらいにチェックしてください。放置しすぎると、トナーが載っている部分も溶けてしまうらしいです。

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↑ アセトン(除光液)を噴霧し、指でこすってトナーを落とします。(ハブラシとかでもいいかも)

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↑ 水洗いして、乾燥させれば完成です。

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↑ ちょっと滲んだりかすれたりしている部分もありますが、そこそこうまくいきました。

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↑ 導通すべきところと、絶縁すべきところをチェックします。

かすれて途切れている部分があれば、あとでハンダでつなげてやればいいと思います。間違ってつながってしまった部分は、カッターで切れ目をいれたり、やすりでこすったりすればいいかもしれません。

実験結果

エッチングもうまくいきましたね。

そこそこ時間はかかりますが、あんまり放置していると、インクでマスキングしている部分も溶けてきたりするらしいので、近くにいて定期的に確認したほうがいいですね。

マスキングしてる部分が溶けちゃうと、その基板を捨てた上で、最初からやり直しですからね。

あの後、動画外で何枚か試してみたんですが、クエン酸と食塩を継ぎ足せば、2, 3 回は使えると思います。あのサイズの基板だったらね。

ただ溶液の色が濃くなってくると反応が鈍くなるので、2, 3 回使ったら捨てて、新しい溶液を作った方がいいです。

廃液処理

プリント基板の作製はこれで終わりといえば終わりなんですけど、最後に後始末をする必要があるんですよ。ちょっと面倒なやつをね。

エッチングが終わった後の溶液は青緑色のきれいな色をしてるじゃないですか。この溶液は当然捨てるんですが、これ、そのまま排水とかに捨てるのはダメです。

エッチング溶液には銅箔が溶け出してるわけじゃないですか。

なんか、水に溶けた状態の銅って生物に有害らしいので、廃液処理っていうのをして、無毒化してから捨てる必要があるんですって。

環境省が『一律排出基準』という基準値をサイトで公開しているらしいので、ちょっと見てみましょう。

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これをみると、銅の場合、\( 3\,\mathrm{mg/L} \), つまり \( 1\,\mathrm{L} \) あたり \( 3\,\mathrm{mg} \) 以下ならそのまま捨ててもいいといってます。

逆にいうと、それを超えてたら、水で薄めてから捨てないといけないわけです。

銅イオン濃度

今回の溶液の銅の濃度がどのくらいなのか、という話なんですが、一応軽く計算してみます。

ただ化学はかなり苦手なので、間違ってる可能性はかなりあるかなと思うんですが、やってみますわ。


  • 基板サイズ: \( 2\,\mathrm{cm} \times 3\,\mathrm{cm} = 6\,\mathrm{cm^2} \)
  • 銅箔の厚さ: \( 35\,\mathrm{\mu m} = 0.0035\,\mathrm{cm} \)
  • 銅の体積: \( 6\,\mathrm{cm^2} \times 0.0035\,\mathrm{cm} = 0.021\,\mathrm{cm^3} \)
  • 銅の密度: \( 8.94\,\mathrm{g/cm^3} \)
  • 銅の質量: \( 0.021\,\mathrm{cm^3} \times 8.94\,\mathrm{g/cm^3} = 0.19\,\mathrm{g} = 190\,\mathrm{mg} \)
  • 銅イオンの排出基準: \( 3\,\mathrm{mg/L} \)
  • 希釈に必要な水: \( 190\,\mathrm{mg} \div 3\,\mathrm{mg/L} = 63\,\mathrm{L} \)

え、\( 63\,\mathrm{L} \)?

家庭用のお風呂に入る水が \( 200\,\mathrm{L} \) くらいらしいので、無茶な量っていうほどではないのかな。

ただ、\( 63\,\mathrm{L} \) の水で薄めるのはいろいろ無駄ですし、しかも基板を 2 枚 3 枚とエッチングした場合、必要な水の量も 2 倍 3 倍になるので、やっぱり廃液処理してからのほうが、なんだかんだいって楽だと思います。

ちなみに、パターン分の銅箔は溶かさずに残すわけなので、実際には上の計算の 7, 8 割くらいになると思います。

廃液処理の方法

廃液処理の手順自体は結構簡単なんですよ。

簡単だけど面倒。

『細かく切ったアルミホイルをエッチング溶液に入れて放置するだけ』

ね、めちゃくちゃ簡単でしょう?

化学的には、『銅よりアルミニウムのほうがイオン化傾向が高いので、固体のアルミニウムがイオン化する代わりに、銅イオンが固体の銅に戻る』ということらしいですが、ちょっと何いってるか分からないですね。

%3 銅イオン + アルミニウム 銅イオン + アルミニウム 銅 + アルミニウムイオン 銅 + アルミニウムイオン 銅イオン + アルミニウム->銅 + アルミニウムイオン

廃液処理の方法を調べているときに疑問に思ったことがあって、

この方法だと、有毒の銅イオンがなくなって普通の個体の銅になるわけなんだけど、逆にアルミニウムイオンが残った状態になるんですよね。

「なんで銅イオンは捨てたらだめなのに、アルミニウムイオンは捨ててもいいんだろう」

環境省の排出基準の表には、たしかにアルミニウムの項目はないんですよね。

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調べたら、銅イオンは重金属イオンだけど、アルミニウムイオンは重金属イオンではないんですって。

重金属イオンは生物にとって毒性が強いけど、アルミニウムイオンはそこまで毒性は強くないから捨てても大丈夫とか、そういうことなんですかね?

よく分かってないけど、そういうことにしておこう。よし。


反応が終わったら、コーヒーフィルタで漉して、固体は燃えるゴミとして捨てればいいみたいです。

液体のほうは、クエン酸のせいで結構強い酸性になってて、例の排出基準では pH が 5.8 未満の溶液を排出することも禁止されているので、\( 1\,\mathrm{L} \) 以上の水で薄めてから下水に捨てれば大丈夫です。

pH をちゃんと測ったわけではないですが、100 倍以上に希釈しているし、もともと溶液の量も少ないので、たぶん問題ないと思います。

実験: 廃液処理

以下、実験風景です。詳しくは動画をみてください。

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↑ アルミホイルを \( 1\,\mathrm{cm} \) 角くらいに切ります。

カッターで切る場合には、要らない紙を載せて一緒に切るときれいに切れます。

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↑ プラスチック容器に溶液を入れ、アルミホイルを数枚入れます。

この溶液は金属を溶かすので、金属容器は不可です。

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↑ 特に反応がないように見えます。

いろんなサイトには『反応が激しい』とあったのですが、動画外で 2, 3 枚エッチングしてますし、その後に 2 日くらい放置していたので、反応が緩いのかもしれません。

とりあえず放置してみます。

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↑ 2 分後。よく見ると、表面に黒い斑点がみえます。

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↑ 5 分後。明らかに腐蝕してます。遅いながら反応はしているようです。

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↑ 8 分後。最初にいれたアルミホイルはかなり溶けてますが、まだ溶液は余裕で濃い青緑色です。

アルミホイル数枚では足りなそうだったので、さっき切ったアルミホイルを全部いれました。

耳を近づけると『しゅわしゅわ』という音が聞こえます。

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↑ 30 分後。容器を触るとぬるい気がしたので温度を測ってみました。だいたい \( 35\,\mathrm{^\circ C} \) くらいあります。(室温は \( 16\,\mathrm{^\circ C} \) くらいでした)

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↑ 2 時間後。アルミホイルはだいぶ溶け、銅の固まりが析出してます。正直けっこうきたない感じです。

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↑ 8 時間後。『しゅわしゅわ』音が聞こえなくなりました。反応が終わったということでしょう。

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↑ コーヒーフィルタで作った濾過装置で溶液を濾過します。

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↑ 2 分くらいで濾過できました。固形物は燃えるゴミとして捨てます。

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↑ 濾過後の溶液は、水 \( 1\,\mathrm{L} \) 以上で希釈してから下水に捨てます。

実験結果

一応うまくいきましたけど、こんなに時間かかるんだね~。

いろんなサイトで調べたときに『反応が激しいから注意』みたいに書かれてたので、数分で終わるかと思ってたんですけど、むしろ一晩くらい放置したほうがよかったですね。


反応が続いてるかどうかは、色が変わるので見た目でもある程度分かるんですが、耳を近づけて音を聞いたほうが確実です。(もちろん反応が激しくないときにね)

反応してると、炭酸みたいに『しゅわしゅわ』した音がするんですよ。

だから、音がしなくなったら反応が終わった証拠です。


あと、アルミホイルは結構大量に必要になるっぽいですね。

\( 1\,\mathrm{cm} \) 角のアルミホイルが数枚でいいのかと思ってたんですが、結局全部いれても足りませんでしたね。

カッターできれいに切ったのはなんだったんだろう。

適当にはさみでぶつ切りにして入れればいいと思います。


今回は、動画外で 3 枚くらいエッチングした後だったので反応は遅かったですが、過酸化水素が多く残っている状態だと反応が激しいのかもしれないので、最初は小さく切ったアルミホイルを数枚だけいれて、様子をみながら徐々に増やしていくといいと思います。

さいごに

はい、ちょうどお時間がきたようです。

今回の実験は結構おもしろかったですね。

うまくいったからっていうのもありますけど、ちょっとした化学の実験みたいな感じだったんで、そういう感じのおもしろさがありました。

では、プリント基板を作る実験シリーズは、これで終わりとなります。

ここまで見てくださった方、本当にありがとうございました。

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では、また別の記事でお会いしましょう。ゼロ・インピーダンスの Kenn がお送りしました。

      2020/02/05

 - 電子工作