ATX 電源を改造して安定化電源を作ってみた Part 2/3: スイッチ取り付け編【DIY・電子工作】

どうも、ゼロ・インピーダンスの Kenn です。

今回は『ATX 電源で電子工作用の安定化電源を作る』シリーズの第 2 回です。もし第 1 回を見ていないのであれば、ぜひ第 1 回から見てください。

前回は、要らなくなったパソコンから電源を取り出すところまでやったので、電源が壊れていないかどうかの動作確認からやっていこうと思います。

スタンバイ電圧の確認

もともとの PC が 13 年くらい前のものなので、実のところ、壊れている可能性もあると思ってます。作っている最中とか、あるいは作り終わってから壊れていることに気づくのは嫌なので、ちょっと動作確認をしてみようと思います。

ただ、ATX 電源はコンセントを接続しただけでは電源が ON にならないらしいです。なぜかというと、通常は PC についている電源ボタンを押して電源を入れるですが、電源を取り出していて、電源を ON するための電源ボタンがないからです。

ということで、完全なテストをするためには電源ボタンの代わりとなるものが必要なのですが、とりあえず、完全なテストではなく、いまできる簡単な確認だけしようと思います。

次の写真は電源ケーブルのコネクタの画像で、ケーブルの色によって電圧や用途が分かるようになってます。

connector-top.jpg

そして、次の表は Wikipedia から借りてきた表ですが、それぞの色ごとに電圧と用途がまとまってます。

connector-layout.png

前述のように、ほとんどの電圧は現時点では出せないのですが、Standby 出力という \( 5\,\mathrm{V} \) 出力(紫色のケーブル)は電源ボタンがなくても常に出力されているらしいです。ということで、5VSB の電圧を測定して、電源が壊れていないかどうかを確認してみます。

次の表は ATX の仕様書に書かれている表で、それぞれの出力電圧の許容誤差を表してます。

tolerance.png

5VSB の場合 \( \pm5\,\% \) と書かれているので、\( 4.75\,\mathrm{V} \) から \( 5.25\,\mathrm{V} \) の間であれば正常、そうでなければ壊れているということになります。

測定方法についてですが、まず電源自体のケーブルをコンセントに接続します。

そして、電源側にスイッチがついている場合には ON にしておきます。今回の電源にはついてないですが、次の写真のように大きい電源にはついていることが多いです。

internal-power-switch.jpg

そうしたら、テスタを \( 5\,\mathrm{V} \) が測定できる電圧測定レンジにして、紫と黒のケーブルの端子間電圧を測定します。具体的には、テスタの赤のケーブルを紫ケーブルに、黒のケーブルを黒ケーブルにあてます。

ちなみに、黒のケーブルはいくつもありますが、内部でつながっているので、どれでも OK です。

測定してみたところ、5VSB の端子間電圧は \( 5.06\,\mathrm{V} \) だったので、完全に壊れてはいないことが確認できました。

shot0001.png

電源スイッチの取り付け

「PC 側の電源スイッチがないので電源を ON にできない」という話を前にしたように、電源を完全に ON にするには、電源ボタンの代わりとなるものを用意しないといけません。

普通、PC についている電源ボタンは押して ON/OFF するプッシュスイッチですけど、今回は横にスライドして ON/OFF するスライドスイッチをつけようと思います。特別な理由はなく、単に安価で、手元にたくさんあったからです。

スライドスイッチは、次の画像のように、つまみを手で左右に動かすことで ON/OFF を切り替えられるスイッチのことです。

slide-switch-1p1t.jpg

基本的には、電源プラグは常に差しっ放しにしておいて、スライドスイッチで ON/OFF を切り替えて使おうと思っています。

ちなみに、動作確認のとこにもちょっと書いたんですが、電源スイッチがついている電源もあります。でも、この『電源スイッチ』と今回つけようとしているスイッチは別物で、たとえるなら、もともとついている電源スイッチはガスレンジの元栓のようなものです。

なので、電源にもともとついている電源スイッチは、基本的に ON にしておけばいいです。

まあ、電源スイッチがはじめからついている電源ならば、スライドスイッチをつけないというのもアリですが、大抵不便な場所についていることが多いので、別途つけたほうが使いやすいかなと思います。

PS_ON# 端子を電源スイッチにする

では、どうすればスライドスイッチを電源ボタンの代わりにできるかというと、PS_ON# という端子と GND 端子をショートさせれば、電源が ON するらしいです。

次の文書は ATX 仕様書の抜粋ですが、簡単に訳すと『PS_ON# 信号が GND になっときにのみ電圧を出力する』『PS_ON# 信号がオープンになったら電圧を出力してはだめ』と書かれてます。

atx-spec-pson.png

ということは、PS_ON# 端子と GND 端子をスライドスイッチにつなげれば、電源スイッチとして使えそうな気がします。

slide-switch-1p1t.jpg

上の写真の右側のスイッチで説明すると、つまみを右に動かしたときに ON させたいので、真ん中の端子に PS_ON# 端子を接続し、右の端子に GND 端子を接続します。こうすれば、つまみを右に動かしたときに PS_ON# と GND がショートし電源が ON になり、つまみを左に動かしたときに PS_ON# と GND がオープン(未接続)となり電源が OFF になります。

チャタリング対策が必要!?

実は、『PS_ON# 端子に直接スライドスイッチを接続するとチャタリングが発生して誤動作する可能性がある』というようなブログの記事を見たことがあるのですが、調べたところ、たぶん問題はないと思います。

チャタリングとは、スイッチを操作したときに内部のパーツが振動して、ON/OFF が細かく繰り返される一時的な現象のことなんですが、ちょっと下の文章をみてください。

atx12v-spec-pson.png

これは ATX12V の仕様書の抜粋なんですが、『機械的接点のスイッチを使用した時に生じるチャタリングを防止する回路を内蔵しなければならない』と書かれてます。

これはまさに、今回の問題の件についての話なので、どうやら元から対策が施されているようです。

ただ、上の仕様書は ATX12V のもので、普通の ATX の仕様書には同様の記述がありませんでした。なので、\( 12\,\mathrm{V} \) 出力が強化されてない ATX 電源ならチャタリングの悪影響がでる可能性がありますが、現在、(中古も含めて)普通に入手できる電源は ATX12V だと思うので、やっぱり問題ないと思います。

追記: 電源を作成して 5 ヶ月くらい過ぎましたが、まったく問題なく使えてます。

\( 3.3\,\mathrm{V} \) Sense

もう 1 つやらなければいけないことがあって、『\( 3.3\,\mathrm{V} \) Sense 』という茶色のケーブルを、橙色のケーブルと接続しないといけません。

これは、橙色の \( 3.3\,\mathrm{V} \) が正しく出力されているかどうかを確認し、出力調整をするための端子みたいです。

橙色のケーブルは複数ありますが、やっぱり中でつながっているので、適当なケーブルとはんだづけしておきます。

shot0002-1.png

負荷が少ないと出力が安定しない!?

実は、ちょっと気になることがあって、『\( 5\,\mathrm{V} \) 電源から、ある程度以上の電流を流しておかないと、\( 12\,\mathrm{V} \) の出力電圧が下がる』というものです。いくつかのブログでみたことがあって、\( 10\,\mathrm{V} \) 付近まで下がる電源もあるようです。

じゃあ、どのくらいの電流を流しておけばいいのかというと、これまたはっきりせず、\( 100\,\mathrm{mA} \) から \( 2\,\mathrm{A} \) まで、結構いろいろな話があったりします。

同様の話が書かれた電源メーカーの資料もあったので、\( 12\,\mathrm{V} \) 出力が不安定になる電源があるのは事実っぽいです。一方で、『最低負荷電流が \( 0\,\mathrm{A} \)』と謳った電源もあったので、電源次第なんだと思います。

今回の電源は(運良く?)無負荷で安定動作しましたが、もし使おうとしている電源が不安定ならどうすればいいか?

『数百 \( \mathrm{mA} \) 流すために抵抗器を並列につける』という話もみたのですが、最低でも数 \( \mathrm{W} \) の消費になるので、放熱対策が必要になる上、なによりもったいないです。

そういう電源にあたった場合、作るのを諦めるほうがいいかもしれないですし、あるいは \( 12\,\mathrm{V} \) 出力が不安定になることを受け入れた上で使うのもいいかもです。

ちなみに、この動画を撮影するかなり前に、別の電源をちょっといじったことがあって、その電源でも出力は安定してました。他の人のブログをみる限り、安定していないケースは案外少なくて、10 件中 2, 3 件程度でした。

なので、無負荷で不安定になる電源は、割合的には少ないかもしれません。

ATX 仕様書には、どう書かれてる?

この件について ATX/ATX12V の仕様書にはどう書かれているのかというと、隅々までみたわけではないですが、見つけられませんでした。

ただ ATX12V のほうに、『負荷がないとき(コネクタが外れているとき)は電源をシャットダウンしてもいい』という記述があったので、無負荷時に電源が OFF になってしまう電源はあるかもしれません。

atx12v-spec-no-load.png

『無負荷時に \( 12\,\mathrm{V} \) 出力が低下してもいい』という記述は、たぶんないです。

ATX12V 準拠なら大丈夫?

追記です。

すでに電源を作り終えたあとなんですが、実は使わなかった NEC のほうの電源もテストしてみました。

その結果、\( 5\,\mathrm{V} \) 出力を無負荷にした状態で、\( 12\,\mathrm{V} \) 端子が \( 11.27\,\mathrm{V} \) しか出力されませんでした。まったく使えないわけではないですが、\( 12\,\mathrm{V} \) 出力の正常値の下限は \( 11.4\,\mathrm{V} \) なんで微妙にアウトです。

ちなみに、\( 5\,\mathrm{V} \) 出力に \( 220\,\mathrm{\Omega} \) 抵抗器をつけて \( 23\,\mathrm{mA} \) くらい流したら、\( 11.3\,\mathrm{V} \) くらいまで上昇しました。(それでもアウトですが)

定格損失の大きな抵抗器をもっていないので、これ以上の実験はできませんでしたが、無負荷時に \( 12\,\mathrm{V} \) 出力が安定しない電源があることを確認しました。

あと、動画では映してなかったんですが、13 年くらい前の DELL の PC の電源でも試したところ、正常でした。

ATX の仕様には、通常の ATX と、\( 12\,\mathrm{V} \) 出力強化版の ATX12V があるんですが、不安定だった NEC が ATX で、日立と DELL ともっと前に試した電源はいずれも(たぶん) ATX12V 準拠でした。

これは完全に僕の推測なんですが、ATX12V 準拠の電源なら、無負荷時でも安定している可能性が高いかもしれません。僕が 4 つの電源で実験をした結果、ATX12V の電源は 3 つとも安定してました。

推測なので間違っている可能性も高いですが、これから電源を作ろうと考えている人は、ATX12V 準拠のものを使ったほうがいいかもです。

まあでも、日立の電源を選んでよかったですね。そうでなければ、やりなおしになっていたかもです。

おわりに

では、今回はここまでにしようと思います。

次回は、パイロットランプをつけるところから、できれば完成までもっていきたいと思います。

よかったら、動画のほうもみてください。

      2019/07/30

 - 電子工作