ATX 電源を改造して安定化電源を作ってみた Part 3/3: 完成編【DIY・電子工作】

どうも、ゼロ・インピーダンスの Kenn です。

今回は、要らなくなった PC の電源を改造して安定化電源を作る動画の第 3 回(最終回)です。もし、以前の動画をみていないのであれば、ぜひ第 1 回から見てください。

前回は、スライドスイッチをつけて電源を ON/OFF するところまでやりました。

パイロットランプをつけたい

ATX 電源は、電源が ON になっているかどうかがファンの回転の有無くらいでしか判断できなくて、しかも静音ファンなので、それすら分かりにくかったりします。

ということで、LED でパイロットランプ的なものをつけて、電源の状態を簡単に目で確認できるようにしたいと思います。

connector-layout.png

ATX のコネクタに灰色の PWR_OK (power good) という端子があります。この端子は、出力電圧が規程の正常な範囲になったときに H になるという仕組みなので、これを使えばパイロットランプを実現できそうです。

pwr-ok-spec.png

ATX の仕様書では PWR_OK の出力インピーダンスが \( 1\,\mathrm{k\Omega} \) と書かれているので、\( V_F = 2.2\,\mathrm{V} \) の LED なら \( 2.8\,\mathrm{mA} \) まで電流をとれそうなんですが、特に省スペースタイプの電源は独自設計の部分もありそうなので、ちょっと不安です。

\[ \frac{5\,\mathrm{V} - 2.2\,\mathrm{V}}{1\,\mathrm{k\Omega}} = 2.8\,\mathrm{mA} \]

出力インピーダンスが仕様書どおりなら LED 直結でよさそうですが、もしそれより小さければ、電流が流れすぎて LED や電源を壊してしまう可能性があります。

ということで、PWR_OK 端子の出力インピーダンスを実際に測定してみます。

PWR_OK 端子の出力インピーダンス測定

pwr-ok-test-circuit.png

上の図は、僕が考えた PWR_OK まわりの内部回路の想像図です。赤枠の内側が電源内部です。

もともとは \( R_2 \) は存在していなくて、PWR_OK 端子と GND 端子は接続されていませんが、図のように \( R_2 \) 抵抗器を直列に接続することで、入力の \( 5\,\mathrm{V} \)\( R_1 \)\( R_2 \) で分圧する形になります。

\[ \displaystyle V_{R_2} = 5\,\mathrm{V} \times \frac{1\,\mathrm{k\Omega}}{R_1 + 1\,\mathrm{k\Omega}} \\ \]

\( R_2 \) の端子間電圧 \( V_{R_2} \) を測定し、上の方程式を解くと、\( R_1 \) (つまり出力インピーダンス)を逆算することができます。

shot0003-1.png

実際に測定してみると、\( V_{R_2} = 1.7\,\mathrm{V} \) だったので、\( R_2 \approx 2\,\mathrm{k\Omega} \) ということになります。

\( R_2 \) を外して、代わりに \( V_F = 2.2\,\mathrm{V} \) の LED をつけると、流れる電流は \( 1.4\,\mathrm{mA} \) くらいになりそうです。

ATX の仕様では \( R_1 = 1\,\mathrm{k\Omega} \) だったので、仕様どおりではありませんでした。幸い、安全側にズレてましたが、電源によっては小さい側にズレている可能性もあるので、やっぱり実測したほうがよさそうです。

LED 直結の条件

一般的な話として、LED を電源に直結すると電流が流れすぎて壊れたり、燃えたり危険があって、そのため抵抗器を直列にいれて、電流を制限する方法がよく使われます。

PWR_OK には内部抵抗 \( R_1 \) が入っているので、うまくいけば、\( R_1 \) を LED の電流制限用として流用し、LED を PWR_OK に直結できます。

今回の電源では直結できることは既に分かってますが、一般的に、どういう条件であれば LED を直結できるかについて、ちょっと考えてみようと思います。

まず、一般的な \( 3\,\mathrm{mm} \) 砲弾型 LED に流せる最大の電流は \( 20\,\mathrm{mA} \) 程度ですが、パイロットランプとして視認できればいいので、今回は \( 5\,\mathrm{mA} \) 以下を目標に考えます。

3mm-led.jpg

電源が \( 5\,\mathrm{V} \), LED の順方向降下電圧 \( V_F = 2.2\,\mathrm{V} \) なので、

\begin{eqnarray} 5\,\mathrm{mA} & \ge & \frac{5\,\mathrm{V} - 2.2\,\mathrm{V}}{R_1} \\ R_1 & \ge & \frac{5\,\mathrm{V} - 2.2\,\mathrm{V}}{5\,\mathrm{mA}} \\ R_1 & \ge & 560\,\mathrm{\Omega} \end{eqnarray}

となり、\( R_1 \ge 560\,\mathrm{\Omega} \) のときに LED に流れる電流は \( 5\,\mathrm{mA} \) 以下になることがわかります。

別のいいかたをすると、内部抵抗測定時につけた \( R_2 \) の端子間電圧が \( 3.2\,\mathrm{V} \) 以下だったら、LED 直結可能ともいえます。

今回の実験で \( V_{R_2} = 1.7\,\mathrm{V} \) だったので直結可能でしたが、計算や測定が面倒なら、\( 560\,\mathrm{\Omega} \) 以上の抵抗器を直列にいれるだけでもいいかもしれません。

コネクタの設計

電圧測定では、電源のコネクタに直接ジャンパケーブルを差し込んでテストしましたが、実際に使うときに、いちいちコネクタにケーブルを差し込むのは使いにくいと思うので、ジャンパケーブルとピンソケットというものを使って、簡単に電力をとれるようにしようと思います。

次の写真のように、ジャンパケーブルは導線の両端に針金的な端子がついているもので、ピンソケットはジャンパケーブルの差込口と金属端子がついたパーツです。

jumper-cables.jpg
pin-header-female.jpg

電子工作の実験のときには欲しい電圧のソケットにジャンパケーブルを差し込んで電圧をとるつもりですが、完成品に電力供給するときに、毎回数本のケーブルを抜き差しするのは大変だし、差し間違いの可能性もあるので、次図のような汎用的な端子を作って、一度に抜き差しできるような作りにしようと思います。

plug.jpg

注意: この出力端子レイアウトは後で変更されます。

とりあえず、ピン配置を考えてみました。

pin-layout1.png

基本的には 3 つの出力をまとめるようにして、1 つのプラグで \( 5\,\mathrm{V} \)\( -12\,\mathrm{V} \) をとれるようにしています。

\( 5\,\mathrm{V} \)\( -12\,\mathrm{V} \) はそのまま使えますが、\( -12\,\mathrm{V} \) を GND とみなせば、\( -12\,\mathrm{V} \) から GND で \( 12\,\mathrm{V} \), \( -12\,\mathrm{V} \) から \( 5\,\mathrm{V} \) で擬似的に \( 17\,\mathrm{V} \) とることも可能です。(もちろん GND は共通でなくなりますが)

ただ、\( -12\,\mathrm{V} \) の出力は普通小さいので、このままだと擬似 \( 12\,\mathrm{V} \) から大電力がとれません。なので、大電力が必要な回路むけに、\( 12\,\mathrm{V} \) 出力強化版のソケットも中央付近につけてます。このソケットからは \( 5\,\mathrm{V} \) がとれないですけど、まあなんとかなるでしょう。

あと、今回は作りませんが、LM317 という可変三端子レギュレータ IC を使って可変出力を作ろうかとも考えているので、右端に端子を予約しておきました。

(追記: 可変出力は結局つけませんでした)

作製

作製風景です。詳しくは動画をみてください。

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ピン配置変更

注意: 完成から約半年後の追記です。

実は、ある理由からピン配置を変更することにしました。

pin-layout1.png

以前の配置だと、ピン自体が 3 本で左右対称なので、間違って逆向きに差し込む可能性ができてしまいます。別のプロジェクトで配線を逆にして回路を壊してしまったことがあって、実験用の電源はよく抜き差しするものなので、逆接続を防止する仕組みをつけたいと思いました。

あと、\( 12\,\mathrm{V} \) 出力強化版のソケットもつけたのですが、それでもせいぜい \( 3\,\mathrm{A} \) くらいしかとれず、モーターとかの駆動では不足するケースもありそうです。

ということで、新しく考えたピン配置が次の図です。

pin-layout2.png

まず、逆接続できないように、接続させないピン (NC) をいれて、4 ピンにしました。NC ピンに針金かなんかを差し込んで物理的に差し込めないようにしておけば、逆向きに接続しても差し込めない仕組みです。

new-plug.jpg

あと、\( 12\,\mathrm{V} \) 出力を 2 本にして最大 \( 6\,\mathrm{A} \) 程度までとれるようにしました。ちょっとした \( 12\,\mathrm{V} \) モーターだったら、駆動できると思います。

最後に、「可変出力端子を将来的につけるかも」といってましたが、どうも必要なさそうなので、端子を削除しました。

まとめ

いま、このブログを書いている時点で半年以上が経過しているんですが、いまのところ問題は起こってません。

これまでは電池を使って実験とかしてましたが、やっぱり最初から \( 5\,\mathrm{V} \), \( 12\,\mathrm{V} \), \( -12\,\mathrm{V} \) が使えるのは、かなり便利です。

以前だと DC-DC コンバータで降圧しないといけなかったのが、そのまま使えるし、出力も大きいのでモーターなどの実験もできそうです。

古い PC があるなら無料で入手できるし、中古でも数百円で買えるというのもうれしくて、工作自体も単に配線するだけなので、ショートにさえ気をつければ簡単にできます。

ただ、電源によっては無負荷時に \( 12\,\mathrm{V} \) が安定しない可能性があって、しかもどの電源が不安定か事前に分からないことが難点です。僕の経験上、\( 12\,\mathrm{V} \) 出力が \( 10\,\mathrm{A} \) 以上ある電源だと成功率が高かったので、これからやる人は参考にしてみてください。

では、要らなくなった PC の電源で安定化電源を作る動画は、今回で終わりとなります。

ここまで見てくれて、ありがとうございました。よかったら動画もみてください。

      2019/09/01

 - 電子工作